ミッキーの死

ミッキーというのは、ジャンが唯一べったりと体を寄せて甘える、オカァサンのような犬である。(オスだが)
以前は我が家の近くの、古い市営住宅で、飼い主のAさんと暮らしていた。
ミッキーはおとなしくて、ジャンはそばを通ると、いつも体を寄せて甘えた。

やがて古い市営住宅が壊されるときがきた。
大部分の人は新しい市営住宅へ引っ越していったが、ペットと離れたくないため一般のアパートを借りる人もいた。
Aさんは、新しい所へ移るのだが、新居へはミッキーを連れて入れない。
市役所の人や近所の人たちで、「新しい飼い主」を探したが、一向に見つからなかった。
また、貼り紙を見て気の毒がって食べものを与える人が増えて、ミッキーはお腹を壊すようになった。

そうこうしているうちに、Aさんが新居へ移る日がやってきた。
ミッキーは、壊す予定の古い家に一人で暮らす日々となった。
散歩と食事は、Aさんが自転車でやってきて面倒を見た。

しばらく日が過ぎてから、Aさんがやってきた。
ミッキーを置いてくれる家が見つかったというのだ。
私たちは胸をなでおろした。
ミッキーの小屋は相当重かったので、夫が台車を使って運んだ。

ミッキーが居候をすることになった家は、優しそうな老婦人が一人で暮らす一軒家だった。
世話はAさんが朝晩訪れてすべてやることになった。
庭先にミッキーを置かせてもらえることになり、そこがジャンの散歩コースでもあったので、相変わらずミッキーとじゃれる日は続いた。

Aさんの老いが目立つようになってきた。
長すぎる散歩の途中で居眠りしたり転んだりするのだ。
一人暮らしで仕事もしていないため、日中から酒を飲んでいたらしい。
そんな生活がたたったのか、Aさんは脳梗塞で倒れ、20日ほど入院した。
しかし、Aさんが居ないその間に、ミッキーは急速に体調を悪化させた。
私は怪我もあって散歩に出られず、そのミッキーの姿を見ていない。

朝一番で、Aさんがやってきた。
「ミッキーが死んだ」というその言葉を、ベッドの中で聞いた。
始末に困って我が家に相談にきたのだ。
脳梗塞後に退院はしたものの、ほとんど声も出なくなったAさん。
市役所へ電話をしても話が通じなくて途中で切られてしまったのだ。

夫が市役所へ電話をしたり、段ボールを探してきたり、Aさんの代わりをした。
ややこしい事情もあり、かなり面倒なようだったが、それもなんとか済み、ミッキーは市のペット用合同墓地に埋葬されることとなった。

ミッキーだけが心のよりどころだったAさんのその後も心配だし、ミッキーに最後のお別れもできなかったけど
さようなら、ミッキー。穏やかで優しくて、一度も吠える声を聴いたことがなかったよ。

「ミッキーの死」への6件のフィードバック

  1. >Michikoさん
    >「イタリアングレイハウンド」という犬種の事ではないかしら。

    ワンちゃんのことでしたか?
    教えてくださってありがとうございます。
    「ちょっとグレた息子のこと」と、勝手に解釈しちゃいました。
    タローままさんは、きっと息子のように可愛がっていらっしゃるのでしょう。
    うちには、甘ったれのジィちゃん犬が一匹います(^^;

  2.  悲しいミッキーの最期でしたね。いつも「今が良ければ」と考える私ですけど、生き物を飼う時には自分の10年後、20年後を考えてしまいます。飼っているペットを看取る事ができるのか、を考えなくては飼う資格はないと思うから。
     二十数年前、広島にいた頃に一人暮らしの老女が飼っていた犬を預かるというボランティアをしたことがありました。飼い主の女性が入院して手術をするので、その間一ヶ月だけという約束でしたが、三ヶ月預かりました。結局飼い主の女性は愛犬を引き取れる健康状態に戻らず、私にその犬を預けた仲介役の人が次の飼い主を捜して引き取ってくれました。でも、とても後味の悪い体験でした。その頃飼っていたまだ年若かったボクちゃんの優しさを確認できて、それだけが良い思い出になりましたけど。
     ペットだって最期は幸せであってほしいです。ボクちゃんもシンちゃんも私の腕の中で息を引き取らせる事ができた事が私にとってとても幸せでした。ミッキーの悲しい最期を読ませていただいて、自分がどれだけ恵まれていて幸せだったのかを確認できた気がします。
     ミッキーの冥福をお祈りします。

    1. Michikoさんに、そのような経験があったとは・・・もし次の飼い主が見つからなかったときには大変なことになっていましたね。
      預かるにも覚悟がいりますね。

      Aさんが入院している間は、預かっている家のご婦人の家族や近所の人が交代で散歩をさせていたそうです。
      お互いに乗り越えてきましたが、ペットの死はつらいものがあります。ボクちゃん、シンちゃん、まっこい ・・・思い出します。

  3. 胸を締め付けられました。 ミッキーが寂しかったのではないかと私のこころが沈んでいます。
    私はタローという イタグレと二人暮らしですが タローは甘えん坊の我がまま息子です。 

    1. タローままさん、こんにちは。
      Aさんが退院してまた元の生活に戻ってから亡くなったので、幸せだったのかもしれません。朝の散歩にと預けている家に行ったときにはすでに亡くなっていたそうです。
      夫が「安らかな顔だった」と言ってましたので、あまり苦しまずに眠るように逝ったようです。

      >私はタローという イタグレと二人暮らしですが

      あの~
      イタグレとはどのようなグレなのでしょうか?
      すみません。無知で(^^;
      そのイタグレさんは、人間ですよね?

      1. >イタグレとはどのようなグレなのでしょうか?

         横からごめんなさい。たぶん・・・ですけど「イタリアングレイハウンド」という犬種の事ではないかしら。ホッソリとした足、スリムな容姿のワンちゃんだと思います。

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